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元野球選手が想い出させた、繰り返す男。

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日々の何気ない行動の中で、 「あれ?」 「ん?」
などと首を傾げることは珍しくないだろう。

     ◇

外出時。玄関ドアにキーを挿して回したら、
わずかにいつもと違う感触だったので、
「あれ?」 となって、
念のため逆にまわして戻し、再度ロック。

あるいは。
風呂で背中を洗っている時――。
つまり、ボディ・タオルの端を頭の横で持ち、
逆手でもう片方の端を腰の横で持って、
ゴシゴシとやっている時。
「ん? ちゃんと洗えているかな?」
となって、いつもより少し丁寧にゴシゴシ。

     ◇

こういった、「ん?」 「あれ?」 
の例は挙げたらきりがないし、
わざわざ着目すらしない日常の営みである。

ここで。
いささかいきなりだが、
次のような光景を思い描いてみよう。

     ◇

玄関の前で、
延々とキーを開けたり閉めたりしている男。
目はうつろ。

「ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ……」

     ◇

サウナや銭湯にて。
ずっと同じリズムで背中を洗っている男。
しかも止める気配なし。

「ゴシゴシゴシゴシゴシゴシ……」

     ◇

地味に恐ろしい状況である。

     ◇

幸い私はこんな状況に出くわしたことがない。
が、実は20代前半に、
このような状況に出くわした方と、出くわしたことがあって、
その方(A氏としよう) にこのような話を聴いた。

     ◇

こんなダークな話。
なんか書きたくないので、躊躇してしまうね。
ふ~。

     ◇

A氏の話によると、この 「繰り返す男」 は薬の中毒者。
A氏の知り合いで、そういう症状が出る男がいるとのことだった。
詳しくは聴かなかったが、大麻、マリファナ(同じか?)
とかの常習者だったと思う。

この話を聴いたのは梅田の酒場だったが、
たちの悪そうなのばかりが、
大勢集まっているという態ではなかったので、
何度か気軽に呑みに行っていた。

ただ。やたらとテンションの高い奴が一人いて、
たしか。
そいつがその 「繰り返し男」 だと教えてくれたように記憶する。
尖ったような顔をしていて、
機嫌よく何かの自慢話を大声でやっていた。
いや。単なるイメージかもしれない。

     ◇

A氏と繰り返し男とは親しかったようである。
上に書いた、「カチャカチャ」 「ゴシゴシ」 
はかろうじて笑えなくもないが、笑えない話も聞いた。

「リピート・マン」(ちょっと変えてみる) 
が運転するマニュアル車に、A氏が同乗。
電車の踏切で一旦停車し、
ギアをローに入れて踏切内に入ったらしいが、
何と、ここではじまってしまったらしいのだ。

「あれ? いま一速に入った?」

「グリッ グリッ グリッ……」

車は線路の上で止まったまま、
ニュートラルとローを行き来させるリピート・マン。

     ◇

A氏があわてて車から降り、
懸命に車を押して何とか危機は脱したらしいが、
一つ間違えれば大惨事である。

そんなこんなのホラーな話を聴いた後、

「ま。それでも、もし興味があるなら。そういうの手に入るから」

というい意味のことを言われたが、
そんなリアルな話を聴いたあとに、
とてもじゃないが興味を持てなかった。

といいますか、ヒエ~~ である。

あまり近づかないようにと、
私に注意してくれたのかもしれない。

      ◇

連日。元野球選手の事件の話題でもちきりである。
彼は私の一学年下で、競技、レベルこそ違えど、
私も元体育会系。
上記のような出来事もあったので、
何やら妙なため息が出る日々である。

私は中2で陸上を始め、高校、実業団でも少し走り、
一連の話を聴いたころは、幾つかの事情で走るのを断念し、
今思えば、やたらと鍛えた身体を持て余していた時期であった。
それなりにクサクサしていたのは否めないし、
少々ヤバくても最悪走って逃げられるという自信もあっただろう。
いろんなスキがあったと思う。

そもそも。
身体を鍛える過程では、闘争心もじっとしていない。
その辺の落としどころを自己責任とされてしまうのは、
我らのような運動バカには、とかく危うさが伴うものである。
つまり。
そういう話をもちかけやすいものを身に付けていたのだろう。

ともあれ。
そういう世界は、酔いと愚かさの向こうに確かにあった。
壁もカーテンもなかった。
リピート・マンはゲラゲラと笑っていた。

     ◇

その店はじきに閉店となった。
単に経営難だと思っていたが、違ったのだろうか?

仮に。走れなくなったことを嘆き、私がもっと荒れていたら、
A氏の話をどのようにとらえていただろうか?

私の財布がもっとぶあつかたっら、
A氏は全く違う話を私にしたのではなかろうか?

二十数年が横たわり、今となっては何ら判然としないが、
ひとついえるのは、
それ以降、そういう危険なゾーンに近づかなかくなったのは、
私の機転とか回避能力とかではなく、
ただただ、「幸運だった」 という要素が強い。


私は簡単に彼を責められない。

繰り返さないためにも、
若者は身体を鍛える前に、十分に心を鍛えて欲しい。

彼の一件が、多くの予備軍を救いますように。



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